相手の気持ちを尊重しつつ、自分の軸を持ち、無理のない範囲で関わることが本当の思いやりだと思う。しかし、世の中には「コロコロと態度を変える人」がいる。
機嫌がいいときは親しげに接してくるのに、何か気に入らないことがあると急に冷たくなる。昨日まで親しげに話していた人が、今日はそっけない態度を取っていたり、まるで別人のように振る舞うこともある。こうした人との関わりが続くと、相手の顔色をうかがうようになり、こちらの心がすり減ってしまう。
特に、自分の気分の浮き沈みによって他人への態度が変わる人と接すると、こちらの心も乱されやすい。ある日はこちらに優しく接してくれるのに、別の日には冷たくなり、何かしたわけでもないのに距離を取られる。相手の態度が安定しないため、「自分が何か悪いことをしたのではないか」と考え込んでしまうこともあるだろう。しかし、こういう人は往々にして他人の気持ちを深く考えていない。ただその時の感情で行動しているだけであり、周囲の人の心の負担には無頓着だ。
この「気分次第で態度を変える人」の特徴として、感情のコントロールが苦手で、衝動的に人と接することが多いことが挙げられる。機嫌がいいときは調子よく話していても、少しでも不満を感じると態度が一変する。また、自分の都合が良いときだけ人を利用し、必要がなくなるとあっさりと関係を断つこともある。こうした人に思いやりを持って接しても、結局はその場限りで、誠実な関係を築くのが難しい。どれだけ相手を気遣っても、結局は相手の気分次第で扱いが変わってしまう。だからこそ、「人に優しくすること」と「相手に振り回されること」は別であることを理解しなければならない。
適度な距離を保つことが大切だ。相手の機嫌が良いときに付き合うのは問題ないが、急に態度が変わる人に過剰に関わると、知らないうちに自分が疲れてしまう。相手の態度の変化にいちいち反応するのではなく、「そういう人だ」と割り切ることで、余計なストレスを抱えずに済む。
テニスコーチの仕事に置き換えてみても、似たようなことがある。たとえば、コーチが一貫した指導をせず、先週のアドバイスと今週のアドバイスが全く違っていたら、選手は混乱するだろう。もちろん、成長に応じて指導内容が変わることはあるが、基盤となる方針がブレてしまうのは問題だ。「先週はこう言っていたのに、今週は違うことを言われた」と生徒が迷ってしまえば、せっかくの指導も効果を発揮しにくくなる。これは、テニスの指導だけではなく、人間関係にも当てはまる。信頼とは、安定した態度の上に成り立つものであり、コロコロと考えを変える人には自然と信用が集まりにくい。生徒が成長するためには、「このコーチの言うことを信じてやってみよう」と思える環境が必要だ。もしコーチ自身が気分でアドバイスを変えてしまえば、生徒は何を信じていいかわからなくなり、練習へのモチベーションも下がってしまう。思いやりの本質も、これと似ている。誠実に人と関わるためには、一貫した態度を持ち、相手を振り回さないことが重要だ。
思いやりとは、誰にでも無条件に優しくすることではない。誠実な人と健全な関係を築くことこそが、本当の思いやりにつながる。自分を振り回す人に時間やエネルギーを使うよりも、一緒にいて安心できる人、信頼できる人とのつながりを大切にした方が、心の負担は少なくなる。「この人は本当に信頼できるのか？」という視点を持つことも重要だ。相手が自分の気分次第で接し方を変えるようなら、無理に付き合う必要はない。時には冷静に距離を取り、自分の心を守ることも大切なのだ。
思いやりを持つことは大事だが、それを無差別に振りまく必要はない。思いやりとは「相手を大切にすること」であり、それには「自分を大切にすること」も含まれる。誠実に向き合える人との関係を大切にし、気分次第で態度を変える人には適度な距離を取る。それが、健全な人間関係を築く上での大切な考え方なのではないかと思う。