「令和の貧乏から抜け出す」
明治時代の「貧乏」は、物質的な欠乏が主な要因だった。封建社会から資本主義への移行期であり、多くの人が新しい社会構造に適応するのに苦しんだ。農村部では貧しい小作農が多く、工業化が進む都市部でも低賃金労働者が劣悪な環境で働いていた。衣食住すら満足に得られず、貧困は生存の危機と直結していた。社会全体が発展途上にあったため、「貧しさ」は個人の努力だけでなく、国家全体の課題でもあった。しかし、この時代の貧困層は、逆に人とのつながりが強く、家族や地域の共同体が生活を支える大きな役割を果たしていた。
昭和時代の「貧乏」は、高度経済成長前と後で大きく異なる。戦後直後は戦争の影響で物資が不足し、食料や生活必需品すら手に入らない状態だった。しかし、高度経済成長が始まると、雇用が増え、賃金も上がり、日本全体が豊かになっていった。この時期の貧困層は、努力次第で抜け出せるという希望を持っていた。しかし、それと同時に「会社や仕事に人生を捧げることが正しい」という価値観が生まれ、貧しさの基準が「物質的な不足」から「社会的な成功を得られないこと」に変わっていった。テレビや冷蔵庫などの家電が普及し、生活の質は向上したものの、周囲と比較する意識が強まり、精神的な充足よりも、経済的な成功が重視される時代だった。
平成時代の「貧乏」は、バブル崩壊後のデフレ経済とともに、新しい形で現れた。バブル期の好景気の後、長引く不景気によって雇用の不安定さが増し、非正規雇用が広がった。終身雇用が崩れ、貧富の格差が拡大し、相対的貧困が問題視されるようになった。物質的には豊かでも、将来への不安を抱える人が増え、精神的な余裕を失う人が多かった。また、インターネットの普及により、情報格差が生まれ、「知識を持つ者」と「持たない者」の間で経済的な格差も生じた。SNSの発展とともに、人々は他者と比較する機会が増え、貧しさが単に経済的な問題ではなく、精神的な側面を強く含むようになった。
令和時代の「貧乏」は、物質的な貧しさよりも精神的な価値観の貧困が際立つようになった。日本は経済的には先進国であり、最低限の生活は社会保障によってある程度保障されている。しかし、SNSの普及により、常に他者と比較し、劣等感を抱く人が増えた。経済的な格差も依然として存在するが、それ以上に「自分が満たされていない」と感じる人が多くなっている。時間に追われ、人間関係が希薄になり、自己肯定感を持てないまま生きている人が多い。この時代の貧しさは、単にお金がないことではなく、「自分には価値がない」「人生に意味がない」と感じてしまうことにある。
結局のところ、現代の貧乏の本質は、精神的な価値観の困窮が占める割合が大きすぎることにある。他者と比較しすぎることで、自分の持っているものの価値を見失い、不満ばかりが募る。抜け出すためには、自分の価値を再確認し、他人にポジティブなものを提供するマインドを持つことが重要だ。他人に与えることで、自分自身も豊かさを感じることができる。物質的な充足だけでは幸福は得られず、精神的な豊かさを意識的に育てることこそが、令和の貧乏から抜け出す鍵となる。
テニスは昔はひとつのステータスとして存在していたのかも知れない、しかしながら、現場のコーチとしてはそれ以上の「something great」であり続けたいと思います。