私たちは日々、人を評価しながら生活している。例えば、ある人を「性格がいい」と思っていたとしても、他の周囲の人が「実は裏がある人だよ」と異口同音に言う場合、もしかするとその評価のほうが的を射ているのかもしれない。
逆に、自分が「頼りない」と思っている人でも、別々の場所で異なる人々に話を聞くと、「あの人がいるから組織やチームが成り立っているんだよ」と言われることがある。このような状況に直面すると、果たして「本当の自分」とは何なのか、という疑問が生じる。
社会心理学の視点から見ると、「本当の自分」は一つの固定したものではなく、他者との関係性の中で形成されるものであると考えられる。社会学者ジョージ・ハーバート・ミードは「社会的自己(the social self)」という概念を提唱し、自己とは他者との相互作用を通じて形成されるものだと述べた。つまり、自分がどういう人間なのかは、自分だけで決めるものではなく、周囲の人々の評価や反応によって形作られるということである。
また、心理学的な観点からは、「自己認識のズレ」がしばしば生じることが知られている。心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した「認知バイアス」の一種である「自己奉仕バイアス」によれば、人は自分にとって都合の良い情報を優先的に受け入れ、都合の悪い情報を無意識に排除する傾向がある。そのため、自分が思っている「本当の自分」と、他者が見ている「自分」にはしばしばギャップが生じる。
このギャップを埋めるためには、他者からのフィードバックを多角的に受け入れることが重要だ。たとえば、一人の意見に振り回されるのではなく、異なる環境にいる複数の人々の意見を聞くことで、自分に対するより客観的な理解が得られる。さらに、ハーバード大学の心理学者ティモシー・ウィルソンは、「自己認識の向上には、自分を客観的に見る習慣が必要だ」と述べており、日記を書く、信頼できる友人に率直な意見を求める、といった方法が有効だと指摘している。
しかし、他者の評価をすべて正しいものとして受け入れるのもまた危険である。社会学者アービング・ゴッフマンは、「人は状況に応じて異なる役割を演じる」と述べた。例えば、職場では冷静で頼りがいのある人が、家庭では優柔不断な一面を見せることもある。つまり、「本当の自分」は一つの固定されたものではなく、複数の側面を持ち、環境によって変化するものなのだ。
結局のところ、「本当の自分」とは、自己認識と他者の評価の間にある曖昧な領域に存在する。自分がどう見られているのかを意識しつつも、他者の意見に流されすぎず、自分自身が納得できる「自分らしさ」を大切にすることが重要なのかもしれない。
練習での自分、試合での自分、プライベートでの自分、違うようでも同じなのかも知れない。