そんな時、この2つの言葉が、何十年間も容易に焼きつきました。
それは「いま」と「いざ」です。
「いま」を生きるとは、目の前の瞬間に集中し、できることに全力を尽くすことです。一方で「いざ」とは、人生の中で訪れる勝負どころや、重大な決断をする瞬間を指します。この2つをどう考え、どう行動に結びつけるかが、人の結果や成長に大きな影響を与えると感じています。
例えば、試合で緊張する選手と、本番でも落ち着いて実力を発揮できる選手の違いは、まさに「いま」と「いざ」の捉え方にあります。普段の練習を単なる「いま」だけで終わらせてしまう人は、試合という「いざ」の場面でうまくいかないことが多いです。練習と試合を分断して考えてしまうことで、試合が特別なものとなりすぎて緊張が増してしまうからです。一方、練習の中でも「いざ」を想定し、試合のシミュレーションとして取り組む人は、試合も練習の延長線上として捉えられるため、冷静に力を発揮できる傾向があります。
心理学的に見ても、これには脳の仕組みが関係しています。脳は未知の状況に対して警戒心を抱き、過剰に反応する性質があります。試合や受験などを「未知の出来事」として捉えると、脳がストレスホルモンであるコルチゾールを多く分泌し、緊張や焦りを引き起こします。しかし、普段の練習や日常の学びの中で「いざ」を意識し、本番をシミュレーションすることで、脳に「これを経験済みだ」と思わせることができます。これによって、試合や受験といった本番でも、脳が必要以上にストレスを感じることがなくなり、落ち着いて行動できるのです。
また、脳科学では「マインドフルネス」の概念が注目されています。マインドフルネスは、「いま」に集中し、無駄な不安や過去への執着を手放す方法です。「いま」を大切にすることは、パフォーマンスを最大化するための基本であり、特に長期的な成功を目指す際に効果を発揮します。しかし、それだけでは十分ではありません。「いざ」を想定しながら「いま」を積み重ねることで、「いざ」の場面でも自信を持って挑める準備が整うのです。
これは受験にも当てはまります。普段の勉強を「ただの作業」としてこなす人と、「この問題は本番でどう役立つだろうか」と意識して取り組む人では、結果に大きな差が出ます。脳は具体的な目標や状況を想定した行動に対して、より深く記憶を定着させる働きがあります。模試や練習問題を本番のつもりで取り組むことができれば、受験当日も同じような感覚で問題に向き合えるため、過剰な緊張を感じることなく力を発揮できるでしょう。
さらに、「いま」と「いざ」をつなげる鍵となるのが「習慣化」です。習慣化された行動は、脳にとって負担が少なく、いざという時に自動的に体が動くレベルまで昇華されます。例えば、スポーツ選手が緊張の中でも正確な動きを維持できるのは、練習の中で「いざ」を想定した行動を繰り返し、体に染み込ませているからです。受験勉強でも、毎日同じ時間に集中して勉強する習慣を持つことで、本番の試験でも集中しやすくなります。
最後に、「いま」と「いざ」を意識することは、結果を出すためだけでなく、自分自身の成長にもつながります。「いざ」を見据えながら「いま」を大切にする生き方は、一瞬一瞬の行動に意味を与え、人生をより豊かにしてくれるでしょう。この2つの言葉が私の中で何十年も残り続けているのは、単に結果を求めるためだけではなく、人としての成長に不可欠だと感じているからです。
あなたの「いま」は「いざ」のために、そして「いざ」はあなたがこれまで積み重ねてきた「いま」を試す場です。ぜひこの2つを意識して、日々の行動に取り組んでみてください。