たとえば、何らかのスポーツで選手を目指す子供がいたとします。親が子供の将来を真剣に考え、熱心にサポートする姿は素晴らしいものです。しかし、その熱量が親の方に偏り、子供自身が楽しみを感じられなくなってしまったらどうでしょう。練習の場は、やがて義務感やストレスの塊になり、「やらされている」という感覚だけが残ります。本来スポーツが持つはずの「楽しい」「もっとやりたい」という純粋な気持ちは影を潜め、最終的には挫折や反発を招くことも少なくありません。
勉強においても同じことが言えます。塾に通い、学校の勉強に追いつこう、受験を成功させようという目標を持つことは重要です。ただ、本人がその目標に対してやる気を感じていなければ、いくら高額な塾費用や時間を投資しても、それは単なる浪費に終わってしまいます。「やりたくないけど仕方なくやる」という状況では、どんなに優れた教材や指導者がいても、結果は限られてしまいます。むしろ、それが嫌な思い出となり、学ぶ楽しさそのものを奪ってしまうことさえあります。
だからこそ、「楽しさのきっかけ」を大切にしたいのです。それは親や指導者が「これをやれば成功する」と押し付けるものではなく、本人が何かに触れた瞬間に感じる「面白い」「もっと知りたい」という感覚から始まるものだと思います。そのきっかけをどう作るかが鍵です。
私自身、テニスのレッスンを通じて「楽しい」という感覚が生徒の中で芽生える瞬間を大切にしています。たとえ最初は何気ないボール遊びや一言の声かけであっても、そこから「これならできるかも」と思える小さな自信を積み重ねることができれば、やがて自ら挑戦する姿勢に変わっていきます。ここで重要なのは、外からの強制ではなく、内から湧き上がるモチベーションに火をつけることです。
もちろん、目標に向かう過程で楽しさだけでは乗り越えられない困難もあります。特に大きな試合や受験といった高い壁を前にしたときには、多少の我慢や努力が必要になるでしょう。しかし、その努力の根底に「自分が選んだ道を歩いている」という納得感があれば、どんなに険しい道のりでも乗り越えられるのだと思います。逆に、他人の期待やプレッシャーだけで動かされていると、その努力が苦痛となり、最終的にその道を嫌いになってしまう危険性もあるのです。
結局のところ、何かを続けるには「これが好き」という気持ちが原動力になります。その「好き」がどんな形であれ、本人が主体的に楽しめていることが何より大切です。楽しさが原点にあれば、それは単なる趣味や遊びを超え、大きな成長と学びを生む土台となります。そして、その土台の上に築かれるものこそが、人生を支える「強石」となり得るのではないでしょうか。
楽しさの先に見えるもの。それは、単なる成果ではなく、自分自身の人生を豊かにする「大きな可能性」なのだと、私たちは信じています。