鬱の力(五木寛之香山リカ)

『鬱の力』という五木寛之と香山リカの著書に触れ、その洞察に思索をめぐらせることになりました。

この著作において、「鬱」と「うつ」が異なる概念として扱われているのは、非常に新鮮かつ啓発的でしたし対談形式で繰り広げられる二人の議論は、読者として深く考えさせられました。

一般に、ネガティブな感情は避けるべきだとされがちですが、本書では、特定の状況下でネガティブ性が必要とされているという見解が示され、非常に興味深いものでした。

戦後しばらくは「躁の時代」で今の時代は、しばしば「鬱の時代」と形容され、現代では驚くほど多くの人々が自分のアイデンティティーを確立するために病院での診断を求めているとのことでした。

理由としては、鬱の診断を受けることで、一定の安心感を得ることができると言うものでした。
また、診断されるボーダーラインが下げられたことへの懸念もされています。

昔ならば、「気持ちの問題だ」「寝れば治る」と考えられた事柄でも、今では病院での診断を必要とするほど重要視されています。

これにより、深刻な症状を持つ患者が適切な診察を受けるのが困難になっており、この状況には危機感を感じている側面も垣間見ることができました。

本書は、ネガティブな感情やマイナス思考が悪とされる一般的な概念を覆しました。

私自身も、東洋医学を含め、人としての良好な状態が実は何かということに興味を持っています。

ポジティブかネガティブか、そのどちらが良いのか、というテーマは、人間の存在そのものに関わる大きなテーマであり、その解明は生物学的な焦点からも必要だったのかもしれません。

このネガティブな思考は、人間の基本的な本能として、太鼓の昔から私たちの中に根付いています。

テニスコーチとしての視点からも、本書は非常に価値ある読み物でした。

テニスにおいては、自信過剰も自信不足も禁物です。

バランスが重要であり、そのバランスを保つためにも、本書のような洞察が必要不可欠です。

選手たちは、技術や策略だけでなく、心の持ち方、思考のバランスも重要な要素として考えなければなりません。

テニスは心と体のバランスが重要なスポーツであり、そのバランス感覚を養うのに、本書は非常に役立つのではないかと思う逸作でした。