出久の内なる挑戦(小説/T氏)

西の町に位置する小さなテニススクール、「D-tennisアカデミー」には、毎週土曜日、出久という少年が通っていた。出久は内向的で、人前ではあまり自分の意見を言えないタイプだった。さらに、彼は飽き性で、始めた趣味や活動を中断してしまうことが多かった。しかし、このテニススクールとの出会いが彼の人生に新しい風を吹き込むこととなる。

「D-tennisアカデミー」の特色は、テニス技術の向上だけでなく、選手としての心構えやマナーも同等に重要視している点にあった。出久は、初めはただボールを打ち返すだけの楽しさを求めて通っていたが、ある日のレッスンでの出来事が彼の意識を変えた。

レッスン中、出久のミスでボールが隣のコートに飛んでしまった。そのボールのせいで、隣のコートのプレイが一時中断してしまった。出久は緊張し、恥ずかしさからそのままプレイを続けようとしたが、コーチのシンジが声をかけた。「出久、ボールを取りに行かないと。他の人たちのプレイがストップしてから取りに行こう。それがマナーだよ。」

この言葉を胸に、出久はすぐに隣のコートに向かい、謝罪と共にボールを取りに走った。この出来事を通じて、出久はテニスの技術向上だけでなく、他人との関わりやマナーにも目を向けるようになった。

年々、出久は成績を伸ばし、地元の大会での試合結果も安定してきた。しかし、いつも決勝で壁にぶつかり、優勝を逃していた。その度にシンジコーチは「次こそは」と励ましてくれ、出久も挫折せずに練習を続けてきた。

3年後のある夏の日、再び出久は大会の決勝に進出。見慣れた対戦相手との試合は熱戦となったが、出久はついにその壁を乗り越え、見事優勝を手に入れた。しかし、彼が最も喜びを感じたのは、試合後、対戦相手から「あなたのプレイマナーはとても素晴らしかった」と言われたことだった。

出久のテニスへの情熱は、彼自身の人間性を磨くきっかけとなった。「D-tennisアカデミー」で学んだことは、彼の一生の宝物となるのだった。