「できない」と「難しい」が人生の分かれ道

もうそろそろ21年目となる。インストラクター人生…。

「できない」と「難しい」という言葉の違いに気付かされたのは、一つの偶然からだった。

感覚的には理解していたように思うが、無意識下で改めて感じたのは初めてのことだった。

そんなある時、生徒たちの一言から、将来的に上達する人とそうでない人の「差」について強く感じる瞬間があった。

それは、いつもとは異なる新しいドリルを試みた時のことだった。

具体的には、ロブの返球からスマッシュやカットでラリーを展開するというもので、生徒同士のペアで行うため、その難易度はかなり高かった。

このとき、ある生徒が「難しい」と言いながらも笑顔でパートナーに声をかけていた。

その姿を見て、私はふと「なるほど」と思った。

このような態度は、小学校の低学年の生徒から自我が確立している高校生に至るまで、後に強くなる子たちに共通する特徴だと気づいた。

成人のレッスンを振り返っても、「できない」と言う代わりに「難しい」と表現する人たちがより成果を出していることが思い浮かんできた。

この違いは、単に言葉の選択以上のものを示している。

心理学的に見ると、「難しい」と感じながらも取り組む姿勢は、困難を乗り越えるための適応力と関連している。

このマインドセットは、挑戦を受け入れ、失敗を経験の一部として捉えることで、新たな技術や知識の習得につながる。

これは「成長マインドセット」と呼ばれ、個人が自己の能力を拡大し続けることができるという信念に基づいている。

逆に、「できない」と断じることは、その瞬間に自分自身の能力に制限を設け、挑戦から逃れる選択をすることに等しい。

この「固定マインドセット」は、新しい試みに対する抵抗感を強め、学習の機会を自ら閉ざすことにつながる。

教える側としては、学習者が「難しい」を「できる」へと思考をシフトさせる手助けをすることが求められる。

具体的には、挑戦を小さなステップに分け、それぞれの達成を積極的に認めることで、学習者の自信を育て、困難に立ち向かう意欲を鼓舞する。

また、失敗を恐れずに試行錯誤を重ねる文化を育てることが、学習者の成長を促す。

学習者自身にとっても、自分のマインドセットを理解し、それを成長マインドセットへと進化させることが重要だ。

自己反省を通じて、困難な状況への反応を見直し、自らに問いかけることが役立つ。

たとえば、「これができないのはなぜか?」ではなく、「これを乗り越えるにはどうすれば良いか?」と問い直すことで、困難を乗り越えるための具体的な策を練ることができる。

言葉でも非言語でも雰囲気的に伝わればいいと思う。

このようなマインドセットの育成は、テニスの技術を教える以上の意味を持つ。

それは、学習者が人生の多くの面で直面する挑戦に対しても、より強く、より柔軟に対応できるようにするための基盤となる。

だからこそ、私たちは日々の指導において、言葉選び一つをとっても慎重に行い、学習者が自らの可能性を最大限に引き出せるよう努める必要がある。